一節入魂　 VOL．３３

新企画　since 2007.8.1

　 VOL．３３

　　２０１０年５月１日更新　

今回の歌唱曲は　河島英五さんの「旧友再会」 です

英五さんの遺作となったこの曲は、2001年4月16日に亡くなる二日目にコンサートで歌われた録音版に娘のあみるさんやアナムさん、息子・翔馬さん、親友の桂南光さんらがコーラスを付けてシングルカットされ発売された。最後のライブ会場となったのは大阪市中央区にあった当時大和銀行（現りそな銀行）本店地下にあったホールで、息も絶え絶えに歌った歌詞が悲壮だが、娘の結婚式に出席することを生き甲斐に病魔と闘い、死の直前まで歌い続けたという姿には敬服するしかない。一本気な男らしさを前面に出しながらも、女性を慕い尊敬し続けた愚直で不器用な男の生き様を最後まで貫いた人だった。死を覚悟しながらも語りたいことがいっぱいあったはずだが、この「旧友再会」では多くを語らず、ただ「わざわざここまで訪ねてくれて　今日はほんとうにどうもありがとう」だけを言いたかったという英五さんの気持ちが伝わってくる。豪快に見えて実は繊細で優しかった人柄が滲み出ていると思う。
実は先日、世話になった方が脳梗塞に倒れたと聞いて見舞いに行って来た。幸い命は取り留めたが、すでに意識はなく、目は見開いているものの、呼びかけに反応もなく、人工呼吸器で辛うじて命を繋いでいるといった状態だった。これもひとつの生命力だと思うが、死の直前までステージに立ち桜の花びらが散るように鮮やかに逝ってしまう人がいて、花が枯れて最後の一葉になっても枝から落ちずに残り続けている人がいる。人の生き様がそれぞれのように、死に様もまた人それぞれだ。
昨年のプロレスラー・三沢光晴に続き、今年はオリックスのコーチ・小林繁、巨人の木村拓哉と、スポーツ選手が相次いで現役のまま或いは現在の職場で命を落とした。あまりの突然の訃報に言葉もない。交通事故や病気で亡くなったのと違い、好きな場所で好きなことをしながら命を落としたのだから、ある意味幸せな人生を全うしたのかも知れないが、残された家族の悲しみを思うと軽々しく言える言葉ではない。
自分に置き換え、果たして僕はカメラを持ったまま死ねるだろうか。暑い日に炎天下のコートでサービスを打ち込んだ直後にコートに倒れ込み死ぬのだろうか。想像してしまう。いや、きっとぶざまに誰にも看取られずに独り布団の中かトイレで逝き倒れているのを数日後に発見されるのがオチだろう。人は生きてきたようにしか死ねないのだから。
「旧友再会」は歌詞で多くを語らず、「ラララ、ラララ～」の繰り返しでエンディングとなる。河島英五の世界では希有の作品だ。これまでの人生でもう十分語り・伝え尽くして来たのだろうか。いや、まだまだ貪欲にやりたいことや遣り残したことがあったはずだが、あえて息子や仲間にバトンを託し、あとは頼むと言いながら思いを「ラララ」のフレーズに込めたのだと思う。英五さんを慕い、追いかけ、そして最後はボタンを掛け違い怒らせたまま世を去られてしまった河島英五に対する路上的旅人のレクイエムである。