２００２年５月１日更新 路上的旅人独り言エッセイVOL．３６ 『テニスボールが結んだ縁』

テニスボールが結んだ縁 ３月のある日、清水哲さんからメールが届いた。 「知り合いからテニスボールを集めているので、協力して欲しいと頼まれています。次の文章を読んでください。“テニスボール”と書いてあったので、「川谷さんに聞いてみよう」と思いました。もし、いらないテニスボールがあれば宜しくお願いします。」 〜先日、あけぼの薬局、かめしま薬局に３名の小学生が、ある手作りのポスターを持って来られました。「薬局の中に、このポスターを掲示してもらえませんか？」と・・・少しはにかみながら・・・。 ポスターの内容は『テニスボールをください。今、わたしたちはテニスボールを集めています。なぜかと言うと、耳が悪い人が、椅子や机を引く音が、とてもうるさく聞こえます。だから、椅子や机に、テニスボールを付けるのです。ある方は、中央小学校の４年３組まで持って来て下さい。使用ずみでけっこうです。よろしくお願いします。』という内容です。画用紙に何枚も下書きした跡がクッキリと残っていて、最後にラッションペンで大きく書いてあり、クラスメイトの為にと思って書いてある活字は、心の温もりを感じます。それと、椅子やテニスボールの絵も大きく書いてあります。 古ぼけた硬式用のテニスボールを持っている方は、是非、お譲り下さいませ。 まだまだ数が不足しておりますので、皆様、ご協力をお願い致します。〜 すぐに返事を書いた 「テニスボールなら、一籠ありますよ。１００球はあると思います。住所を教えてくれたら持って行きますよ。」 中央小学校と聞いて、大阪市内の学校と思い込んでいたら、熊本県の「荒尾市立中央小学校」だった。清水哲さんのお母さんの実家の関係だろうが、とても持参できる距離じゃない。宅急便で送ることにした。「古いボールがお役に立てるのはうれしいことです。テニスボールを切る時に、手を切らないように気を付けて下さい。」と手紙を添えて。 一ヶ月が過ぎ、テニスボールを送ったことも忘れていたある日、自宅のポストに小さな封筒が届いた。差出人を見て、「あっ」と声を上げた。中を開けると、かわいい文字が並んでいる。担任の先生が書かれたと思われる丁寧なお礼状とともに、６通の手紙が入っていた。 川谷さんテニスボール集めをきょう力してくださってありがとうございました。今中央小の全校のいすや、つくえにテニスボールが付きました。川谷さんやほかの人がきょう力してくれたおかげで、テニスボールが集まりました。川谷さんもこれからもがんばってください。私たちもがんばります。熊本県荒尾市中央小学校４年１組　T.Yさん 川谷さん　テニスボールありがとうございました。 最初は、テニスボールは、あんまりあつまらないとおもいました。 でも、ポスターを作り、近くの店や家の人の仕事（場）にはったら、テニスボールをだんだんあつまって、今３４５９こです。けど、大阪からくるなんておもいませんでした。ほんとうにテニスボールありがとうございました。 ４年　I.Mさん 川谷さん　清水さんへ テニスボールを大阪からとどけてくださってありがとうございました。とどけてくれたテニスボールは、無事、学校の全員につきました。ぼくは、いろいろな人がとどけてくれた人の気もちが、一ばん、うれしかったです。　４年　Y.Tくん 川谷さんテニスボールありがとうございました。おかげさまで、テニスボール３４５９こになりました。そして、１年生や、３年生、６年生に、つけることができました。ほんとうにありがとうございます。ぜんこうに、もうすぐつきます。これは、川谷さんのおかげです。テニスボールを、きるとき、あたたかいきもちがはいってきました。そのテニスボールは、今、１，３，４，５，６年生のつくえといすのあしにあります。わたしたちの足にもついています。とてもギーギという音はでません！とてもうれしかったです。ありがとうございます。　４年　K.Hさん テニスボールありがとうございました。テニスボールを、ちょくせついただいたので、おれいの手紙を書きました。テニスボールを８４固もいただいてありがとうございました。このテニスボールは、１つ１つ大せつにつかいたいと思います。　４年１組　M.Yくん テニスボールありがとうございました。川谷さんのおかげでたくさんあつまりました。わざわざ大阪から送って下さって本当にありがとうございます。　４年　T.Hくん 今回の取り組みは、熊本県荒尾市中央小学校４年生のあるクラスから始まった。隣の有明小学校では、すでに全員の机と椅子にテニスボールが取り付けてあるらしい。中央小学校に通う補聴器をつけた友達を助けたいという思いが、クラスのみんなの気持ちを動かし、やがて取り組みは全校へと広がっていった。地域の協力もあり、呼びかけの輪が遠く大阪の私の所にまで届いたという訳である。 そして、この素敵なお話は、担任の先生方と子ども達の協力で「紙芝居」となった。お礼の手紙とともに『テニスボールへの思い』というシナリオが届いた。 第一場面では、どうしてテニスボールを集めようということになったのかが書かれています。その中で「自分の思いを相手に伝えることの大切さや、相手がわかってくれた時の喜びを知ることができました。」とありました。なかなか思いが伝わらず、一人が『やめたい』と言ったときも、みんなの思いが強くてそれに負けないで最後までやり通したそうです。 第２場面で、これまでの自分たちの生活をふり返り、『４年生として残された日々をこんなクラスにしていきたい』という思いを出し合う場面があります。子ども達が真剣に話し合っている様子が目に浮かんできます。 様々な困難や苦労を乗り越えて、最初は無理だろうと思っていた４０００個ものテニスボールが集まり、みんなで喜ぶシーンには胸に迫ってくるものがありました。 最後の場面では、この活動を通じて「自分のためだけでなく、周りの人のために力をつくすことの楽しさ」を学んだとありました。活動を通じてたくましく成長していく子ども達の姿が微笑ましく伝わってきます。この紙芝居を実際に見ることはできませんが、遠く熊本県の顔も知らない子ども達と結んだ縁は、私の大切な宝物です。 ゴールデンウィークが終わった５月７日の夜、知り合いと食事中に携帯電話が鳴った。 着信番号は　０９６８・・・　覚えがない番号である。 誰からかな？訝りながら出ると女性の声で「あのぉ、川谷さんですか？私、熊本県の・・・」 「うわぁ〜、せ・せんせいですかぁ？」私の声が上擦っている。テニスボールの小学校の 担任の先生からの嬉しい電話だった。連休明け、ポストに私からの手紙が 届いているのに気づき、早速お電話を下さったという訳だ。 このＨＰも、子ども達といっしょに見て下さったらしい。「子ども達、みんなとっても喜んで 見ていました」。拙い私の文章が、荒尾市立中央小学校のお友達に 見てもらえたということは、言葉に言い尽くせないほど嬉しいことである。 また、今回の出逢いのきっかけとなったポスターをお店に貼って下さった あけぼの薬局さんが、ＨＰに私の紹介を掲載して下さいました。是非ご覧になって下さい。 この日、大阪で偶然出会った“路上詩人・軌保博光さん”の言葉を借りれば、 「不自然な出逢い」が、あとから考えると「必然的な運命的な出逢い」になることがある。 本当に人と人との出逢いは素敵だ。どんな小さなきっかけからでも、 大きな力をもらえることがある。すごい元気をもらえる時もある。 テニスボール一個から広がった縁は、また大きく広がった。 ２００２／５／８　追加更新

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