路上的旅人独り言エッセイVOL．４５
『逢いたい人が次々やってくる』
前回のエッセイで、路上詩人の軌保博光さんとの出逢いを「偶然ではなく必然なんだ」と書いたら、また同じようなことがあった。
１１月のある日、僕は、ミナミにあるお笑いの演芸館「ワッハ上方」の最前列に座っていた。この日は、「わてらは在日関西人」というイベントがあり、いつもお世話になっている趙博さんと落語の笑福亭伯鶴師匠が出演することになっていた。９月９日にめでたく女児を出産した桂あやめさんとイギリス出身の女性落語家・ダイアン吉日（オレット）さんも出るということで、伯鶴さんから写真を撮ってほしいと頼まれたのだ。
中入りまで、３列目に座っていたのだが、どうも前のお客さんの後頭部がファインダーに入って撮りづらい。思い切って最前列に座り直した時に、隣に座っていた小柄な女性が話しかけてきた。手元を見ると最新のデジタルカメラを持っている。「誰のファンですか」と聞くと「ダイアン・オレットさんです」と人なつっこい笑顔で答えてくれた。エキゾチックな彫りの深い顔に思わず見とれて、「日本の方ですか」といきなり失礼な質問をしてしまった。この日の演題が「在日関西人」なのだから許してもらおう。この日に撮ったデジカメの写真を何枚かモニターで見せてくれた。最近のデジカメの性能は素晴らしく進化しているとは聞いていたが、彼女が撮った写真は、どれもみな素敵な表情を捉えている。この人は何者なんだろう・・・国際大喜利を見ている間も、本当に楽しそうに笑っている。ジパング上陸大作戦の相方のオーストラリア人や、ダイアンさんの流暢な（当たり前だが）英語もちゃんと理解しているようだ。そんなことを思いながら、楽しい舞台がアッという間に終わった。席を立つ時に、どちらからともなく目があって「面白かったですね」と言葉を交わした。「僕は、趙博さんの写真を撮っているんです。ダイアンさんの写真も載せていますから見ますか」と言うととっても喜んでくれて、一枚のコピーを手渡された。
「ガン乗り越え夫と二人三脚〜自転車で地球一周」（今年８月５日の読売新聞）見覚えのある記事だった。エミコ・シールさんは旅の途中で子宮癌だと分かり、同行していたオーストラリア人のパートナー、スティーブ・シールさんとともに、パキスタンから急遽帰国。すぐに手術したものの、あと僅か発見が遅れていたら半年も持たなかったという進行性の癌だった。「５年後の生存率は４０％」抗ガン剤の投与で髪の毛が抜け落ち、凄まじい激痛に耐えての闘病生活。この夏、１年半ぶりに自転車のペダルを踏み、地球一周の旅を再開したとか。記事を読み終えた時に、なんとも言えない爽やかな気分になったことを覚えている。どんな人なんだろう。同じ大阪の人間ならいつか会ってみたい。漠然とそう思っていたその女性だった。
 ダイアンさんと 左がエミコ・シールさん |
この日が初めて会うというダイアンさんとのツーショットを撮らせてもらった。エミコさんのカメラで２枚、初めてデジカメのシャッターを押した。うまく撮れていたらいいんだけど…
続けて自分のカメラで、二人の喜んでいる姿にシャッターを切る。重い病気と闘っているエミコさんは、笑うことで癌に打ち勝とうとしているのだ。電話でしか話したことのない二人が、今こうして初めて出逢って、手を取り合っている姿に感動した。人は素晴らしい。病に倒れても夢をあきらめない限り、奇跡は起こるはず。無邪気なエミコさんの笑顔を見て、そう思った。この人を助けて下さい。病気を治してあげて下さい。そう祈らずにはいられないが、彼女はきっとそんな神頼みに頼らなくても、自分の気力と生命力で癌をやっつけるに違いない。自転車で世界一周をやり遂げようとする精神力は半端ではないはずだ。僕は、彼女の笑顔の中に強い意志の力を感じた。目の奥がキラキラと光っていた。こんな目をした人は滅多にいない。
その日の夜に、エミコさんから教えてもらったＨＰを見た。ピンクのオートバイで全国を走っていた頃。オーストラリア人のシールさんと出逢い、バイクを自転車に乗り換え、一緒に世界を走り回ったこと。旅先で病に倒れ、帰国し、手術後たくさんの人たちに励まされ、病と闘ったこと。いろんなことが分かった。逢いたいと思っていた人が、次々と向こうからやってくる。出逢いに感謝し、早速お礼のメールを送った。この日は興奮して眠れなかった。
次の日、早速、エミコさんから返事が来た。僕のＨＰを見てくれたのだ。今月のトップページは路上詩人の軌保博光さんが書いてくれた書と清水哲さんとの写真だ。
＜以下、エミコさんからのメールです＞
| こんにちは、川谷さん！ 今日の出会い、偶然というより必然的でしたね〜。（と、私が勝手に思ってるだけ？） というのも、、、 昨日、友人からこんなメールが届きました。↓↓↓ こんにちは。Ｈ・Ｍ・Ｓの○○です。 実は、友人の○さんから本日、私宛にメールが入りました。 実は、軌保博光（のりやす・ひろみつ）という路上詩人がいて、 彼は路上でたくさんの人に、筆で言葉のメッセージを送ります。 私も軌保さんのことは、よく知っていますが、彼が今、日本のために立ち上がろうとしていて、 それに協力してほしいともことでした。 協力と言うのは、他でもありません。 ＜中略：内容は軌保博光さんのＨＰで＞ 以上です。（長文をそのまま転送してすみません） で、川谷さんのHP拝見してあれれっ？路上詩人・軌保博光さん？ 重なりますね〜。 私も昔から、逢いたいとか欲しいとおもったものが次から次へと目の前に現れるので（今じゃ、 もう驚きもしないぐらい・・・）、 ほんと、神様って存在するんだなぁ〜と思ってます。 それにしてもすばらしいHPですね〜〜〜。ほんと立派です。 では、また、何かありましたらメールいたしま〜す。 by笑みエミ(=^_^=)＆スティーブ(^ｖ^)・シール ※療養中により、返信が遅れる場合があります。ご了承下さい。 エミコ＆スティーブの地球大冒険ブログ
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エミコさんと、この日知り合ったことも驚きですが、僕と出逢った日に友人から路上詩人の軌保博光さんの紹介メールが届いたというのも、もの凄い偶然ですよね。これこそ、軌保さんのいう「必然的な人の出逢い」なのでしょう。軌保さんが作ろうとしている映画にも、是非、エミコさんに出演してほしいです。もし、来年、清水哲さんとのトークが実現したら、そこにゲストで来てもらって「いのちの大切さ」を語ってもらいたいです。
路上からスタートした僕の旅は、この先、いったい何処まで続くのでしょう。
人との出逢いを通じて、逢った人の数だけドラマが増えていきます。
ほんとうにひとはすばらしい。
にんげんはすてきです。
出逢った日にあったワッハ上方のイベントは下記のアイコンから
VOL．３１
ワッハ上方 「わてらは在日関西人」
  ２００３年の春、お花見に行き、エミコさんからプレゼントされた彼女の本です 『ガンを越え、めざせ地平線！！』 鹿砦社刊 定価：１２００円 訪問国７７ヵ国、走行距離１０万８，６１８ｋｍ−。 「自転車世界一周旅行」、その壮大な旅のゴール目前に、 もう一つの冒険があった−。 |
【注】 エミコさんは、２００６年５月で癌発病後５年が経過し、完治との宣言をされたので、
闘病資金としては受付終了しました。これまでのご協力ありがとうございました。（２００６／１１）
エミコさんとお花見に行った日のページです
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